最近問い合わせの多い、塩化亜鉛(ZnCl2)を鼻の一番奥に塗布する、「上咽頭擦過療法(Bスポット療法)」は、耳鼻科ですので、研修医の時からもちろん行なっています。
以前、自ら積極的にBスポット療法を行なっている、内科の先生が執筆された書籍を持参された方がおられ、「私はもう読みましたので、先生に差しあげます。」とのことで、頂いたことがあります。その患者さんの上咽頭炎は、週2回程度の治療で、1カ月以内に治癒しました。

本来、汚い傷口はメスやブラシで削り取り、新鮮な創を露出して再生させるのが原則ですが、鼻の奥は狭くなかなかそうはいきません。塩化亜鉛には「収斂作用」(タンパク質を変性させることにより組織や血管を縮める作用)があるので、新鮮な粘膜組織の再生を促すのです。
この療法は、戦後、歯科専門学校から念願の大学に昇格し、東京医科歯科大学医学部が創設され、耳鼻咽喉科初代教授の堀口 申作先生のグループがはじめたものです。
内服薬の効果がない、難治性の上咽頭炎に効果があるのはもちろん、昔から腎炎、とくに自己免疫が関与するIgA腎症に効果があることが解っています。
1960~70年代、堀口教授のグループは、様々な病気になんでも効果があると耳鼻科だけでなく、様々な学会で発表し、評価の定まらない中、一般向けの啓蒙書を書きすぎたため、次第に廃れていったと若いときに聞きました。

医科歯科大難治疾患研究所(難治研)教授時代の笹月先生の下には、医科歯科出身の優秀な大学院生、研究生はもちろん、全国から研究者が集まり、医科歯科大学の臨床教室をはじめ、他大学とも共同研究をしていました。
「不夜城」と言われた研究室からは、NatureやScienceといった超一流雑誌に論文が続々と掲載されました。改組により医学部から独立した九大生体防御医学研究所(生医研、別名:笹月研)設立の際、請われて、本人によれば仕方なく、九大に異動した笹月先生と雑談している時に聞いたのだと思います。
要するに、免疫担当細胞が多い上咽頭での免疫応答に関係のなさそうな、様々な疾患に効果があるという一連の臨床研究には、しっかりとしたデータがなかったのです。先生はその後、医科歯科大耳鼻科とも共同研究をされているので、実際に手足を動かして研究をしていた医者に聞いていて、ご存知だったのでしょう。
同じ免疫学の研究者だけでなく、東大の内科や外科の臨床教授をはじめ、誰とでも仲良くされていたので、情報収集力は抜群でした。国内、海外での講演旅行、文部省や厚生省の会議から帰ってくると、「簡単だから(実際は何年かかるかわからない)、我々はこういうのをやろうよ」とおっしゃるのには閉口しましたが。