よく言われることですが、臨床教室の研究は、症例報告や治療成績報告は別にして、「二番煎じ」「三番煎じ」が多く、10年は遅れています。医師免許取得後、将来基礎研究者、即ち教授になるべく、すぐに大学院に入学する基礎大学院生もいましたが、私を含めほとんどは、研修医を終了した臨床大学院生で、本来、基礎2年必須、臨床2年ということになっていました。
しかし、学部や修士課程で最新の実験手技を学んだ理学部や薬学部卒業生、外国人留学生はもちろん、2年間の研修医を終えた医者も、全員が4年以上基礎研究室に在籍していました。当時でさえ、あまりに高度化した専門知識と実験手技を2年で習得するのは不可能だったからです。

私は本庶先生と面識はありませんが(私たちの研究室の主催した福岡での日本免疫学会総会で見かけただけです)、決して「小中学校の教科書を信じてはいけない」と言っているのではないことは明らかでしょう。そんなことだったら、小学校は行かなくてもいいですから。
もっとも、私は高校時代、当初工学部志望であったこともあり、物理・化学選択で、生物は初歩しか勉強していませんが、聞くところによると、最近は自分も苦労して実験した、分子生物学が大学入試の主流らしいので、高校の教科書くらいだと、間違いもあるかもしれません。
分子生物学、すなわち遺伝子解析も、自分たちの頃、院生1人が4年かかっても結果が出なかったものが、今では数日間で結果が出るようになりました。もちろん、要求されるレベルが高くなり、もともと免疫学では細胞培養、蛋白質の解析等々があり、単なる遺伝子の解析だけでは学位は取れません。それにしても、科学、というより測定機器の進歩には驚かされます。
では、厳しい質問が飛び交う研究員全員参加のDataMeetingや抄読会、個別のDiscussionで、笹月教授(後年、厚労省の医学研究の総本山である国立国際医療研究センター研究所長から総長にご就任)から、「大発見はまだか?他人の真似をしても全く意味がない。宝くじは買わなければ当たらないぞ。青春時代を潰して実験するんだから、悔いのない研究生活を送れ。」と発破をかけられ、4年間大学院で研究して得たものは一体何か。
それは、「ものの考え方」が身についたということです。

これは、人手不足の医局で、最初は私が院に行くのを反対していた当時の医局長(講師)が、自身も大学院で研究して得たものとして言っていた言葉です。「辛いだろうが頑張ってこい!」と送り出してくれたのでした。